2002年に受講した松本正生先生の「政治学」のレポートです。

政治意識図説―「政党支持世代」の退場 (中公新書)

『政治意識図説』を読んで

私が『政治意識図説』を読んで印象に残ったのは、「残余カテゴリーからの反逆」という言葉である。従来、「政党支持なし」層として「残余」と考えられてきた無党派の人々が、現在では政治意識調査の多数派になり、無党派の投票行動が選挙の結果に大きな影響を与えているのである。
そのことは、89年参議院選挙の土井ブーム、93年衆議院選挙の日本新党ブーム、そして98年参議院選挙の橋本内閣退陣などに端的に現れている。無党派層が自らの政治意思を表明するために投票所に足を運び、投票率を上昇させ大きな政治的変化を呼び起こしたのだ。
しかし、最近の選挙結果は、無党派の動向の変化をあらわしているのではないか。
それは、昨年の千葉県知事選挙と今年の3月に行われた横浜市長選挙である。二つの選挙とも「無党派の反乱」といわれたが、投票率は千葉県知事選挙では、前回の28.67%は大きく上回ったとはいえ36.88%であり、横浜市長選挙も前回を5.24ポイント上回る39.35%にすぎない。 従来は無党派投票率が大きく上昇することによって、政治的な変化を引き起こすと考えられていたが、最近は投票率がそれほど上昇しなくても、選挙における大きな政治的変化が生じている。ただし、朝日新聞社が実施した横浜市長選挙の出口調査では、無党派層32%、自民支持28%、民主支持14%と無党派層が多数派となっている。また当選した候補者は無党派層の56%の支持を得ている。
 では、無党派層はどのように変化したのだろうか。
それは「残余カテゴリーの観客化と二極化」である。
まず観客化について考える。バク・チョル・ヒー(バク・チョル・ヒー『代議士のつくられ方』文藝春秋、2000年)は、地域住民の相当部分は選挙キャンペーンが行われている地域の社会的ネットワークから離れている。むしろ彼らはマスメディアから情報をえて、マスメディアが直接・同時に伝える全国的な問題に関心を寄せていると主張している。すなわち、無党派層はメディアの伝える全国的な情報から政治的な判断を導き出すのだ。したがって、全国的に既成の政治家や政党に対する不信が高まると、無党派層は地域の問題においても、そのような基準で、蒲島郁夫によれば、積極的に参加はしないが、変化を求め、安全な場所からおもしろいアクターを求めるのである。そして「無党派層の反乱」といわれるような現象を作りだすのである。それが残余カテゴリーの観客化である。
 次に二極化について考える。一方で以前のような投票率の大きな上昇はおきていない。したがって無党派層の内部においても投票して変化への欲求を意思として表明する人と、投票しない人に二極化しているのでないか。そのことが投票率の上昇を妨げているけれども、多数派となった無党派層の動向が選挙結果を左右しているのである。これが残余カテゴリーの二極化である。
 観客化し二極化する残余カテゴリーをいかに把握するかは、政治家とともにメディアや研究者の課題である。