原武史『戦後政治と温泉』(中央公論新社、2024年) 

戦後政治史における空間政治学 

東京から離れて箱根や熱海で時間を過ごす首相 

が作り出す、政治空間。 

吉田茂鳩山一郎石橋湛山岸信介池田勇人佐藤栄作 

でも、それぞれの政治家の空間の利用方法は多様である。 

元老として、奥の院に鎮座した吉田茂 

アンチ吉田としてより開かれた姿勢を見せようとした鳩山一郎 

かみしもを脱いだ交流の場としても考えた岸信介 

公と私を厳格に区分し、国際会議を開催するが、私空間には立ち入らせない池田勇人 

一次資料を縦横無尽に狩猟し、実証的に分析している 

温泉という空間で個人に与えた影響が、さまざまな政治的反響を生み出していく 

空間の政治学 

私も『原敬日記』を読みながら、東京から離れて、腰越(鎌倉)や岩手 

に足しげく通う原敬の姿を興味深く観察していた。 

東京という俗世間から離れて自らを再活性化させ、客観的な視点を付与しうる 

地理的な距離がもたらす影響力。 

原敬は鉄道に乗ることでも、自らの意識を再活性化していたのではないか。 

相当の時間鉄道に乗っていたと思う。 

東京から遠くは離れるという距離の感覚が、意識を再活性化し、 

三谷太一郎の言う、ザッヘへの思いをより強めることになったのではないか。 

是非、原武史の『原敬と鉄道』を次回作としてお願いしたい。