後期高齢者医療制度

ec319132008-05-31

林慶一郎「けいざいノート」『朝日新聞』2008年5月24日

後期高齢者制度の本来の目的とは,増大する医療費を抑制し,またその一方で,医療費のための保険料収入を増やす,ということ。
その目的のためには,無駄な医療や投薬を,患者や現場の医師が自発的に抑制したくなるようなインセンティブをを制度に埋め込むことが望まれる。
全世代で分担することが社会厚生を高める上で望ましい。
医療費の「無駄」を抑制するメカニズムが入っているのか。
新制度では,高齢者の患者負担は現行制度に比べてほとんど増えていない。一方,保険料は医者に行くかどうかにかかわりなく取られる。
インセンティブの経済学を間違って理解した制度設計ではないか。
保険料は医者に行くか行かないかに関係なく徴収されるものである。そこには自発的に無駄な医療を受診しないようにしよう,と高齢者に考えさせるメカニズムが何もないのである。
新制度は一部の高齢者の保険料負担を増やすかもしれない。生活が圧迫され,必要な医療を受けることをあきらめるようにならないだろうか。
高齢者の健康増進という究極目標の手段として高齢者医療があり,その医療費をどうするかが問題なのに,高齢者の所得を圧迫して劣悪な生活を強いるなら,本末転倒の結果としか言いようがない。
高齢者だけを別立ての保険にすることは「病人だけの保険」を作るのと同じくらい不自然なものだ。
資産家の負担を多くすべきだというのなら,年齢にかかわらず,資産の多い人の負担を増やす制度にすべきで,年齢で区切る経済的な合理性はない。
資産によって負担割合を変えるには,行政が国民の資産状況を把握する必要がある。納税者番号制度の導入など国の根幹にかかわる全体的な制度変更が必要になるだろう。